化粧品の使用感を数値化するSD法

化粧品開発における官能評価

– 化粧品開発における官能評価新しい化粧品が市場に出るまでには、様々な開発段階を経て品質を高めていく必要があります。その中でも、実際に人が使用した時の感じ方を評価する官能評価は、商品の成功を大きく左右する重要なプロセスです。化粧品の評価項目は、見た目や香り、肌への塗り心地といった感覚的なものから、使用後の肌の変化や気持ちの変化といった数値化が難しいものまで多岐にわたります。例えば、口紅であれば、見た目の色の美しさやパッケージの高級感はもちろんのこと、唇に塗った時の滑らかさや香り、発色の良さ、色持ちの良さなども評価の対象となります。官能評価は、訓練を受けた専門のパネラーによって行われます。パネラーは、定められた基準に基づいて、それぞれの項目を細かく評価し、その結果を数値化したり、文章で記録したりします。この評価結果は、開発担当者へフィードバックされ、製品の改良に活かされます。例えば、「香りが強すぎる」「使用後の肌のつっぱり感が気になる」といった意見があれば、香りの成分を調整したり、保湿成分を配合したりするといった改善が図られます。このように、官能評価は、消費者が実際に商品を使用した際に感じるであろう使用感や満足度を予測し、製品開発に反映させるために欠かせないプロセスです。官能評価によって、消費者の感性に寄り添った、使い心地のよい、そして効果を実感できる化粧品が生まれるのです。

SD法とは

– SD法とはSD法（意味差分法）は、化粧品をはじめとする様々な製品やサービスに対する消費者の感覚やイメージを、言葉を用いて計測する手法です。言葉のもつイメージの差を利用して、対象に対する印象や感覚を、数値化して客観的に把握することができます。-# 具体的な方法例えば、ある化粧品の「使用感」について調べたいとします。SD法では、「さっぱりしている」と「しっとりしている」のように、評価したい項目に対して正反対の意味を持つ言葉（対語）を両端に配置します。そして、その間を段階的に区切り、段階ごとに「非常にさっぱりしている」「ややさっぱりしている」「どちらでもない」「ややしっとりしている」「非常にしっとりしている」といったように、程度を表す言葉を添えます。評価者は、この段階の中から、試した化粧品の使用感に最も近いと感じる段階を選びます。これを複数の評価者に対して行い、結果を集計することで、その化粧品の「使用感」に対するイメージを数値化し、分析することが可能になります。SD法は、言葉の持つイメージの力を借りて、感覚的なものを客観的に評価できるという点で非常に有効な手法と言えます。化粧品の開発においては、消費者の感覚に訴えかける製品作りが求められるため、SD法は広く活用されています。

SD法の特徴

– SD法の特徴SD法の最大の特徴は、言葉では表現しにくい感覚や感情を、数値として捉えることができる点にあります。従来、化粧品の使用感などに関する調査は、アンケート調査を通して「良い」「悪い」といった言葉で評価を得ることしかできませんでした。しかし、このような評価方法では、回答者の主観に左右されやすく、客観的な評価が難しいという課題がありました。SD法では、アンケート調査を通して得られた「しっとり感」「さっぱり感」「べたつき感」といった様々な使用感に関する回答を、統計処理を用いて数値化します。この数値化により、これまで曖昧であった感覚や感情を客観的なデータとして分析することが可能になります。例えば、開発中の新しい化粧水の使用感を、既存の化粧水と比較したい場合を考えてみましょう。SD法を用いることで、「新しい化粧水は、既存の化粧水よりも、しっとり感が〇ポイント高く、べたつき感が〇ポイント低い」といった具体的な数値に基づいた分析が可能になります。さらに、この数値化されたデータは、年齢や肌質といったセグメントごとに分析することも可能です。例えば、20代をターゲットにした化粧水が、実際に20代の女性に好まれる使用感になっているのかを、数値データに基づいて検証することができます。このように、SD法を用いることで、開発者は感覚的な評価を数値化し、より確かな根拠に基づいた製品開発を進めることができます。そして、消費者のニーズをより的確に捉えた、魅力的な化粧品の開発に繋がるのです。

結果の可視化

– 結果の可視化

化粧品の使用感や効果を評価する官能評価では、感覚的な情報を数値化する手法が用いられます。その代表的な手法であるSD法(Semantic Differential method セマンティック・ディファレンシャル法)では、例えば「みずみずしい – しっとり」といった、対比する言葉で構成された尺度を用いて評価を行います。

SD法で得られたデータは、グラフや図を用いて視覚的に表現することで、より分かりやすく分析することができます。中でも、複数の評価項目を同時に表示できるレーダーチャートは、化粧品の官能評価において頻繁に用いられます。

レーダーチャートは、円状に配置された複数の軸で構成され、各軸がそれぞれの評価項目を表しています。中心からの距離が評価の高さを示し、各項目の評価を線で結ぶことで、製品の特徴が一目でわかるような図形が描かれます。

例えば、ある化粧水について「みずみずしい」「さっぱり」「保湿力」「べたつき」「持続性」といった項目で評価した場合、レーダーチャートを見ることで、「みずみずしい」という印象が強い一方、「保湿力」は低い、といった製品の特徴や改善点を視覚的に捉えることができます。このように、レーダーチャートは、製品のバランスを把握したり、競合製品との比較を行う際に非常に役立ちます。

SD法の応用範囲

– SD法の広がる可能性

SD法は、消費者の感性を数値化し、客観的なデータとして分析することを可能にする手法です。そのため、化粧品業界だけでなく、食品、自動車、家電など、様々な分野の製品開発において活用されています。

従来の製品開発では、開発者の経験や勘に頼ることが多く、消費者の嗜好とずれてしまうケースも少なくありませんでした。しかし、SD法を用いることで、消費者の潜在的なニーズを捉え、より精度の高い製品開発が可能になります。

例えば、食品業界では、新しいお菓子の開発にSD法が活用されています。消費者に試作品を評価してもらい、その結果をSD法で分析することで、味や食感、香りなど、どの要素が消費者に好まれ、どの要素が改善すべきかを客観的に判断することができます。

また、自動車業界では、車のデザインや内装の開発にSD法が応用されています。消費者に様々なデザインの車を評価してもらい、その結果を分析することで、消費者がどのような形状や色使いの車を求めているのかを把握することができます。

このように、SD法は、消費者の感性を捉え、製品開発に反映させることで、企業の競争力強化に大きく貢献しています。今後、AIやビッグデータ解析などの技術と組み合わせることで、さらにその応用範囲は広がっていくことが期待されます。